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第20回えんため大賞受賞作家インタビュー
ライトノベル
ファミ通文庫部門
第20回エンターブレインえんため大賞
ライトノベル ファミ通文庫部門 特別賞
『やがてはるか空をつなぐ』
 (※『ブロックチェーン』から改題)
著:山之 臨 / イラスト:パルプピロシ
●プロフィール
トレイルランが好きで、山道を走っている時に考えた物語を書いています。受賞作は、数年前に住んでいた町の近くの山道で思いつきました。筆名はその町の名、マウンテンビューを自分で和訳したものです。
今は、カクヨムにも物語を掲載していますので、『山之臨』で検索して頂けると嬉しいです。

小説を書こうと思ったきっかけはなんですか?

 数年前。カリフォルニアのマウンテンビューの町に住んでいた頃、僕の毎日は職場と自宅の往復と言う単調なものでした。週末だけは、近くの山のトレイルを走っていました。
 その頃、朝から深夜まで仕事の書類やデータばかりを見ていて、ある夜、目が回り、吐き気がしたのを覚えています。ただ、仕事は嫌いではなく、それをずっとやっている事に歯止めがきかなかったような感じですね。
 これはマズいと思い、リラックスできるような日本語の本、特に漫画でも買って読もうと思いました。
 iPadで電子書籍を探したのですが、漫画は直ぐに読み終わるような気がして、小説を探していたところ、人生で初めてライトノベルに触れました。
 数冊ほどライトノベルを読んだ後で、こんな風に自分でも書けば楽しめるかな、と思ったのがきっかけです。
 なお、今考えれば自分でも不思議なのですが、あの頃、マウンテンビューのアパートには家具も電気製品もあまりなく、テレビもなければ、日本語の本もありませんでした。MacBookとiPhoneとiPad、それにGoogle Homeの四つくらいの装備で暮らしていました。だから、娯楽としてライトノベルを必要としたのだと思います。

えんため大賞でデビューしたいと思われた理由を教えてください。
(ex.賞金が魅力的、出身作家が好きだったなど)

 まず自分が書きたいものと言うことで、高校生たちの物語をいくつか書きました。それもテーマが「ワケありの高校生たちが、つながる。再生する」と言ったものです。恋愛要素はありますが、それはメインではありません。
 個人的には、こう言った僕の物語のコアに据えたテーマや構成はマーケティング上で区分される『ラブコメ』や『恋愛』には合わないかなと思いました。もちろん『異世界ファンタジー』でもありません。
 それを踏まえた上で、こうしたテーマなどを実際に商業用として扱うレーベルを探していました。そして、過去の作品をいくつか拝見した後に、ファミ通文庫様はひょっとしたら、その候補の一つかなと思うようになりました。

今回の受賞作のアピールポイントはどこですか?
また、執筆・応募にあたって気をつけたことがあれば教えてください。

 主人公は、現状を少しでも変える手段として、未熟ながら自分自身の武器でもある技術――プログラミングであり、モデルロケットであり、高高度バルーン――を手にしています。そして、その技術を使って必死に足掻きます。
 そうして足掻くのは、実は、ヒロインや他の主要キャラクターも同じです。自分たちなりに必死になって、欲しいものを求めている姿――互いにつながろうとする姿――にこそ、それぞれのキャラクターの個性が際立つのかと思いました。
 三人称一人視点で語られる物語ですが、各キャラクターの感情の変化や、その感情を処理しようとして行動する様を楽しんで頂ければ幸いです。

受賞が決まったとき、また授賞式に出席したときのお気持ちを教えてください。

 受賞は大変光栄な事で、嬉しかったです。
 ただ、それ以上に、コネも実績もない者の書いた、現在の商業用の主流とは言えないテーマ・作風のこの物語を、新人賞として評価して頂ける編集部の方が本当に存在する事を知って、感慨深く思いました。
 受賞の連絡を頂いた時、ヘンな話ですが、出版業界を「あまり斜に構えて見なくても良かったのかな」と思った事を今でも覚えています。

将来、どういう作家になりたいと思っていますか?

 たとえ話ですが、金融の話をします。
 金融の世界は、恐らく出版業界と負けず劣らず、鋭いビジネスセンスを持った人たちが数多くいます。だから、サブプライム層へのモーゲージやその証券化など高収益を生み出す商品があれば、人皆、その投資に乗り遅れようとはしません。それが変化の激しい世界では一時のメインストリームにもなります。
 他方、そうした時流に乗った集中投資は、十年前の衝撃――所謂、リーマンショック――で負の側面も露呈しました。中長期的な視点で見れば、高収益の資産と共に、低リスク・低収益の資産も含めた巧みなポートフォリオバランスの維持が、ビジネスの安定をもたらすとされています。
 翻って、僕の物語は、現在のライトノベルのメインストリーム――たとえばそれは『異世界ファンタジー』かも知れませんが――ではないと思います。
 そうであるからこそ、僕の物語・作風が、レーベルのポートフォリオに多様性をもたらすものになる事ができれば、とも考えています。

最後に、これから作家を目指す方へひと言アドバイスを!

 僕の物語・作風が、低リスク・高収益を生むものであれば、ここにひと言だけではなく、無数のhow toを記載できるのかもしれません。
 また、たとえば低収益でも低リスクであれば良いと思いますが、現状、僕の物語には、高リスク・低収益の可能性も残されています。
 故に、最後に、作家ではなくあくまで受賞者として、ファミ通文庫様の賞を頂く過程で、創作上工夫した点をここに記します。
 僕は、受賞作と同じ舞台――つまり架空の地方都市の理数特科がある私立総合高等学校――を使って、連続して複数の物語を作りました。一度設定した基本構造を、ストーリーや登場人物たちを何度も変えて使い回しました。受賞作は、そのような過程で生まれた四作目の物語です。
 せっかく作り上げた舞台を一度きりの物語で封印せず、何度も使う事で、次第に設定の粗が修正され、より精緻になったと言う手応えはあります。
 これから応募される皆様のご参考になれば幸いです。